糖質制限は耐糖能を悪化させる可能性がある
2016年03月11日
健康診断でHbA1cや空腹時血糖値の値が引っかかり糖尿病になってしまった方で従来のカロリー制限による糖尿病食ではなく、糖質制限を行う方が増えてきています。
食事で血糖値を上げるのは炭水化物(糖質)の影響がほとんどなので、糖質を含む食品を摂らなければ血糖値はあがりません。血糖値があがらなければ当然HbA1cの値も正常な範囲に収まるというわけです。
この糖質制限ですが、まじめな人や危機感を持っている人ほど食事の糖質量を0に限りなく近づけて、「1時間後血糖値が120mg/dLまでしか上がってない、よしよし」と血糖値を極力上げないレベルまで糖質を制限してしまわれる傾向にあります。
ただし、こういった極端な糖質制限は耐糖能を悪化させる可能性が以前から示唆されており、糖尿病の入り口付近にいらっしゃる方は「より耐糖能が悪化するリスク」を考えた方が良いかもしれません。
糖質制限前よりも糖質制限を始めてからの方が、少ない糖質量で血糖値がより多く上がるようになったと実感される方が相当数いらっしゃいます。
糖質制限による耐糖能悪化は無いということを納得できる根拠付きで証明するエビデンスがない限り、全く無視するわけにはいきません。
低炭水化物・高脂質食で耐糖能が悪化
マウスでの実験
An LCHFD is unlikely to be of benefit for preventing the decline in β-cell function associated with the progression of hyperglycemia in type 2 diabetes.
Nutrition & Diabetes - Abstract of article: A low-carbohydrate high-fat diet increases weight gain and does not improve glucose tolerance, insulin secretion or [beta]-cell mass in NZO mice
マウス実験ですが、低炭水化物・高脂質食にしたマウスで
「耐糖能が悪化し高インスリン状態になった。β細胞はむしろ減少」
「結論:低炭水化物・高脂質食は2型糖尿病における高血糖症の進行に関連するβ細胞機能低下を防止するのに有効ではない。」
という結果だそうです。
血糖値を上げないことで、疲弊したβ細胞を休ませて機能回復することを期待している方には酷な結果かもしれませんが、β細胞を休ませても膵臓機能は回復しません。
まあマウスでの実験のひとつに過ぎないともいえますが。
続いてヒト実験によるものです。
健康な人が低炭水化物&高脂質食を行った場合の影響
Conclusion: A high-fat, low-carbohydrate intake reduces the ability of insulin to suppress endogenous glucose production and alters the relation between oxidative and nonoxidative glucose disposal in a way that favors storage of glucose.
Dietary fat content alters insulin-mediated glucose metabolism in healthy men
「結論:低炭水化物・高脂質食は、内因性グルコース産生を抑制するインスリンの能力を減少させる」
とのこと。
原理は分かりませんが、結局のところ筋肉と同じで使いすぎれば炎症して機能障害(じん帯断裂等)を起こすし、使わなきゃ使わないで衰えるってことなのでしょうか。
適量の糖質を入れて、ちゃんと日々膵臓を適度な負荷で動かすのがよいのかもしれませんね。
続いて、糖尿病専門医のQ&Aから引用。
赤池内科のQ&Aより
糖負荷試験の検査実施前の3日間は炭水化物を150g以上含む食事を摂ることが必要です。検査前に低糖質食をある程度の期間続けているとインスリン分泌能は低下してしまいます。少なくとも私はそう思っています。 低糖質食によりインスリンの分泌は少なくなります。この状態がある程度続いている時に急激な糖負荷(75gOGTT等)を行うとインスリンの迅速な分泌反応ができずに食後高血糖の状態になってしまうと思われます。
よくある質問(薬物療法) 赤池内科(赤池循環器消化器内科)
:
(中略)
:
ある程度の長期間、低糖質食・低カロリー食で生活していると膵β細胞の機能低下が起こり、そういった生活を続けている分には影響がなくても何らかの環境変化で食生活が変わった時に食後高血糖→糖尿病といったリスクを高めてしまうことになりかねません。
低糖質食で耐糖能が低下するというのは割とメジャーな説のようです。
低炭水化物/高脂肪食で妊娠糖尿病患者のインスリン抵抗性が悪化、新生児肥満が増加
妊娠糖尿病患者を対象として、低炭水化物/高脂肪食(LC/CONV)、および高複合炭水化物/低脂肪食(HCC/LF)の影響を調べたところ、LC/CONVはHCC/LFに比べて、インスリン抵抗性を悪化させ、胎児肥満を増加させることが示された。
引用元:日経メディカルオンライン
妊娠糖尿病のケースで、低炭水化物食にすることでインスリン抵抗性が悪化し、新生児の肥満が増加するという結果が出ているとのこと。妊娠糖尿病は胎児にも影響でてしまうのですね。
低炭水化物食に男性の2型糖尿病リスクを高める可能性
「動物性タンパク質と脂質が多い低炭水化物食、特に大量の赤身肉や加工肉が含まれている食事は、2型糖尿病リスクを増加させる可能性がある」とし、一方で「植物性タンパク質と脂質が多い低炭水化物食は、2型糖尿病リスクの変化に関連していない」と結論付けた。
引用元:日経メディカルオンライン
炭水化物を減らす場合、代わりに脂質の多いものでカロリーを摂ることになるわけですが、そのときに赤身肉や加工肉の割合を多くすると2型糖尿病リスクが増加がみられるとのこと。
炭水化物の代わりの食品を赤身肉や加工肉ではなく、植物性タンパク質でまかなった場合には2型糖尿病リスクに影響しなかったということです。
糖質制限する場合は、加工肉などの割合を多くするのではなく、豆腐などの植物性タンパク質を多く含む食品を多めにしたほうがよさそうです。
75g OGTT(ブドウ糖負荷試験)のガイドラインにも検査条件として「3日間は糖質150g/日以上摂ること」と書かれている
75gOGTT(ブドウ糖負荷試験)に関する検査にあたっての条件として以下のような記述があります。
「OGTTの実施に当たって正確な判定を得るためには、次の条件を守ることが必要である。
糖質 150g/日以上含む食事を3日以上摂取した後に行うこと。」
さらに以下の記述もあります。
「飢餓時や食事からの糖質摂取が少ない場合には耐糖能は低下する」
根拠なくこういったことは書かないでしょうから、やはり糖質摂取量が少なくなると耐糖能が悪化するというのは全くのデマではなさそう、と考えるのが自然です。
実際に糖質制限後にOGTTを受けたら耐糖能異常と判定されてしまった方
糖質制限ダイエットと糖負荷試験
この食事療法で、体重は6Kg減り、12月中旬の検診に臨んだ。 結果は空腹時血糖 105mg 正常値。ヘモグロビンA1C 5.7 高めだが一応正常値。 糖質制限ダイエットの効果は凄いと実感した。
引用元:糖質制限ダイエットと糖負荷試験 : 思い付くままに
ところがである、75gr経口糖負荷試験のデータをみてびっくりした。 糖負荷試験では2時間値がなんと206mgもあり、完全に糖尿病型を示していた。 過去の糖負荷試験2時間値は2011年が113mg、2010年が134mg。 今年に限ってすごい高値に跳ね上ってしまっていた。
食事に気をつけ体重も落し、体脂肪率も落ち、空腹時血糖、ヘモグロビンA1Cもともに正常化したのに糖負荷試験だけが極端な異常値を示し、糖尿病型。
OGTTの注意事項である「3日以上、一日150g以上の糖質を摂ること」という条件を知らず、糖質制限後にOGTTを受けたら急に耐糖能異常になってしまったということです。糖質を摂らないようになると、糖質をいざ摂ったときに血糖値が上がりやすくなってしまう(耐糖能異常)わけです。
ブログのコメントを見ても他にも同じような経験をされた方がいらっしゃるようです。OGTTを受ける場合、それまでに糖質をちゃんと摂って耐糖能が戻らない限りOGTTを受けるべきではありませんね。
耐糖能が戻ればいいですが、糖質制限で筋肉量が落ちていると糖代謝の性能は悪くなっているので、そうなる前に糖質制限を解除することも考えるべきかもしれません。
糖質制限する最終目標は何なのか?
自分は糖尿病だと諦めて、今後糖質を摂らずに生きていく覚悟を決めた人にまで「糖質制限するな」とはいいません。
ただ、長期にわたって極端な糖質制限をしたときの安全性についてエビデンスがないのも事実ですし、相対的に脂質摂取量が増えることにより死亡率が上がっているデータがあるのも事実です。
また、今後生きている間、炭水化物はもう食べないと諦めているのであればよいですが、それもまた悲しい決断です。お寿司やお蕎麦などが本当は好きという方は多いでしょう。
特に2型糖尿病になりたての時点ではインスリン分泌機能が弱くなっているというより、インスリン抵抗性によって血糖値が下がりにくくなっている場合が多いのです。そんな方が糖質制限をして耐糖能を悪化させて本当に糖尿病になってしまうリスクを負うよりも、耐糖能を高めるということが本来とらなければいけない対策です。
β細胞を休ませて将来的にまた耐糖能が上がって糖質のあるものを食べられるようになりたいと思っている場合には、糖質制限で耐糖能が悪化する事実を受け入れられるのでしょうか?
今現在糖質制限に取り組まれている方は、一応その辺を考えた方がよいかもしれませんぞ。
カレーライス1人前(糖質150g)が無理でも、おにぎり1個(糖質35g)くらいは食べられるようになりたいものです。
そのためには、耐糖能を改善させる必要があります。
膵臓β細胞を休めても耐糖能は回復しない。
糖質制限すると耐糖能は悪化する。
だったらどうするか?